world

能力者と非能力者に二分された世界。

大戦後、パワーバランスは完全に入れ替わり、追われる側になったのは能力者だった。

各国は能力者の管理を国連に委ね、能力者は生き延びるために共同体を築いた。『墨蹄集』、絶滅するしかない彼らの最後の聖域。

「僕らは、生まれた以上は、生きなければならない」

――これは、「答えがない」がこたえになる物語である。

形力(形力学)

けいりょく / Noetica

鮮明な認識は「形」となってあらわれる。

定義 認識を現実に強制出力する力。この世界における「異能力」の総称であり、研究体系は「形力学」と呼ばれる。

かつて誰もが能力を使って生きていた。火を灯す者、岩を動かす者、痕跡を消す者――人の数だけ能力があり、文明もまたそれと共に進化した。
しかし非能力者が数で勝る現在、それは利便性ではなく「恐怖」である。多くの能力者は、迫害を恐れ、その力を隠して生きている。

整合性

The Coherence

この世界は反発する。それは誰にとっても絶対不変の法である。

定義 整合性とは、現実と認識の齟齬が大きいとき、現実を補正する超自然現象のことをいう。形力によって生じた歪みが大きいほど、もとの形に戻ろうとする力も大きく働く。

世界には”人の心”がわからない。だから容赦なく干渉し、“形”を正す。干渉は人の心を砕き、五体を壊し、ときに大地を闇に染める。
今も昔も、整合性の最高危険指定《プロトコル-N》に君臨するのは「生命創造」である。しかし往々にして人は願う――「死んだあの人にもう一度会いたい」と。

形力学上、最大の不可能と呼ばれる事象は2つある。「時間の不可逆性を破ること」と「命を造り出すこと」だ。
時間遡行が理論上不可能であるのに対し、生命創造は理論上は実現可能性がゼロではない。ゆえに生命創造は絶対にして唯一の禁忌なのだ。

墨蹄集

ぼくていしゅう / Ebon Sangha

水墨画のように静謐に、しかし確かに痕跡を残す。

理念 能力者の安全・尊厳・自律の保障

亡国フソウは、かつては能力者陣営を率いた大国だった。
敗戦後、生き残った数少ない人々は、今日を生き抜くため共に助け合い、瓦礫の片隅にコミューンを結成した。
灰の中にまかれた種が芽吹き、やがて生まれたのが思想共同体『墨蹄集』である。

安らぎの場である一方、外部から見れば能力者だけの集団。それは危険の象徴であり、強大な恐怖であり、と同時にミステリアスな魅力もあわせ持っていた。
だからだろうか。
国連が正式に認める存在ではあっても、墨蹄集は“国家”でないため地図には載らない。それでも人々は知っている、「東洋には、今も能力者だけの国があるらしい」と。
その警戒の裏に、ささやかな期待と羨望をにじませながら。

検校

けんぎょう / Sangha Oversight Commission

あらためる者たち。墨蹄集の理念の番人。

概要 墨蹄集の行政庁直下にあり、全体を横断する独立監査機関である。使命はただ一つ、墨蹄集の「理念」を守ること。

理念を守るためであれば、時には想いや願いも犠牲にする。その目的は良くも悪くも強く一貫したものである。
“すべての能力者”の自由と安全を守る彼らの管轄は、場合によってはフソウ国外にまで及ぶ。
理念運用の監察とひとことで表せど、事件の調査、監視、福祉、研究など、その活動領域は広く、トレードマークの八つ花と黒い衣を身にまとう彼らは、墨蹄集の中でもひときわ異彩を放つ存在である。
その最前線に立つ調査官として、主人公セイもまた、日々世界の現実と向き合っている。

ERA

Equilibrium Recovery Agency / 均衡喪失対策機関

均衡喪失後の世界で、世界秩序を維持する者。

概要 歴史上、能力者と非能力者の人口比率が完全に逆転したことを『均衡喪失』と呼ぶ。
そして、均衡喪失を機に、国連の下で設立された特別機関がERAである。現在は、非能力者によって運用されている。

彼らの任務は、均衡を失ったがゆえに発生する数々の問題――衝突、混乱、災害――を「処置」すること。
墨蹄集にも駐留部隊「コルヌア隊」を派遣し、協調の名のもとに監視を続けている。

彼らの行動原理「世界秩序」は果たして誰のためのものなのか。世界中の思惑が渦巻き、腹の内は実に混沌としている。

国連

United Nations

人類平和を標榜する、世界最大の国際機関。

Purpose 人類の平和

2160年代、非能力者出生例が相次ぎ「均衡問題」が顕在化すると、各国は情報と研究を集約する場として「国際均衡会議」を設立した。これが前身である。
その後、能力者と非能力者の対立が激化し、大戦を経て2273年、組織は現在の「国際連合」へと改組される。
当初の学術色は薄れ、今の理念は「世界平和」と「人類全体の存続」にアップデートされている。

人類とは誰か。平和とは何か。
それを定義するのが彼らの政治である。

アゼル教

Azelism

「神は、ここに在る」

概要 古代より能力者たちに受け継がれてきた宗教。

整合性を“神の意思”とみなし、整合性による干渉を「導き」と捉えるのが最古の正統解釈である。信徒は死後、神と完全に調和し、苦しみのない安らぎへ至ると説く。

しかし均衡喪失以降、非能力者は教義を再解釈し、主流にして温和な「采配派」、過激な「オリオンコード」、禁欲的な「沈黙学派」など、多様な派閥を新たに生み出した。
アゼル教はいまや非能力者の宗教であり、能力者本来の「正統派」は極めて少数となった。
なお、形力学上の整合性が二重円で表現されるのに対し、アゼル教における"神の意思"は三重円で描かれる。

「組織」

そしき / The Order

致死量の信念を持つ者たち

覚書 徹底した潜伏と徹底した口封じにより、一般社会が彼らを認知することはほぼない。

攻撃対象は能力者に限られる。
広大なネットワークを通じて各国の要人や企業に影響を及ぼし、資金と技術を掌握する。表向きの目的は「不調和の排除」とされるが、真意は明らかではなく、能力者排除をうたうアゼル教過激派「オリオンコード」の関与も噂される。

破壊工作や暗殺を通じて能力者社会を蝕む彼らは、墨蹄集とERAが最も警戒する存在のひとつである。

先日、墨蹄内部で発見された死体から“ある工作員”の活動痕跡が確認された。コードネーム《アンタンブラ》。いまだかつてその姿を知る生還者無し。
保安局は総力を挙げて追跡しているが、本事件はまもなく公安の管轄へ移るだろう。

大戦

たいせん / The Great War

共存の道は、最初からなかった

年表 2228年 第一次均衡戦争開戦

かつて人類は皆、能力を使えていた。
非能力者の出生率が増え始めた頃から、人々は囁きだす。
これは進化か、それとも退化か。

――果たして“正しい姿”はどちらなのか。

この問いはやがて宗教解釈をも巻き込み、学派の論争から国家間の政治対立へと拡大していく。思想と信仰の亀裂は決定的となり、2228年、ついに大戦が勃発。
それは単なる武力衝突ではなく、思想戦争にして宗教戦争という人類史上最大の分断だった。
同時に、能力者にとっては「力の兵器転用」という、越えてはならない一線を踏み越えた取り返しのつかない歴史でもある。

< System Overview >

明暦2420年
惑星総人口
約12億人
能力者出生率
約1/4000(0.025%) ※墨蹄除外
墨蹄集人口
約5万人(ほぼ能力者にて構成)
主要組織/国家
国連/ERA、墨蹄集、A国、カルナート、他
主要言語
A語、フソウ語、他
宗教
アゼル教(最大多数)

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